「放射能汚染」(月刊コラム【No.98】2011年8月)

3月11日の東北大震災による福島第一原発事故の放射能汚染はますます広がりと深刻度が増加し、止まるところを知らないかのようである。餌となる稲わらの放射能汚染による肉牛の放射性セシウム汚染問題がクローズアップされてはいるが、汚染されているのは稲わらや牛だけでないのは明らかである。

土壌汚染によって農作物は出荷停止になり、汚染水の海への垂れ流しにより、魚や海産物にも多大の影響がある。放射能汚染は日本列島ばかりか世界全体の環境を悪化させずにはおかない。まことにフィクション映画の世界にあるような恐るべき状況にわれわれは置かれてしまった。

少しでも原発に関心のある人なら知らない人はいないはずの、京大原子炉実験所助教の小出裕章氏が、原発の危うさについて一連の著作(『隠される原子力』、『原発のウソ』、『原発はいらない』など)を刊行しておられる。それを読むと、福島第一原発事故の放射能汚染は小出氏が予想した以上に深刻な状況にあるように思われる。農作物が作れないどころか、多くの人たちが住み慣れた故郷に戻れない事態が到来することは、残念ながら確実なことらしい。

これまでの日本政府や電力会社は、「原発は安全」で「環境を汚さないエコ電力」であり、「原発をやめたら電力が足りなくなる」といった宣伝を繰り返して宣伝してきた。それを側面で支えてきたのが、原発推進論者の学者達・原子力安全委員会・保安院である。保安院などは原子力その他のエネルギーに係る安全および産業保安の確保を図るために中立であるべき機関でありながら、推進派の中枢たる経済産業省に属するというのであるから、反対一色とならぬようなやらせ質問を要請したというのは、「やはりそうであったか」と本性が露見した思いがする。

そのように原発推進派が勢力を保持してきたのは、強大な利権構造が存するからだということは、自民党議員でただひとり原発に反対してきた河野太郎氏からの情報などを見るとよく分かる。学者も電力会社から金を貰って安全性を問い質さないというようでは、学者としての良心を売り飛ばしたといわれても言い訳できまい。マスコミにしても、原発反対の意見を披瀝する番組をしただけで、「もうお前の所にはコマーシャルは出さない」といわれたという話が伝えられている。

小出氏も最新刊の前掲書『原発はいらない』で、かくまで甚大な被害と犠牲を与えながら、まだなお原発再稼働を画策せんとする勢力の存在する理由を、「①独占企業である電力会社は、原発を作れば作るほど、稼働すればするほど儲かる仕組みになっている、②原子炉の製造を三菱重工、東芝、日立などの大企業が担い、そのまわりに『原子力村』の住人である政治家、官僚、地方自治体、関連企業が群れ集まり、原子力利権を分け合う構造を手放すことができない。③『原子力開発=核兵器開発』であり、日本の政府は一貫して核兵器をいつでも製造できる態勢を維持することに努めてきた。その国策を、『たかが原発事故』くらいで変更はできないと思っている。④悲しい事態だが、原発交付金、補助金などによって財政の首根っこを押さえられている地方自治体は、雇用の問題もあり再稼働を容認せざるを得ない」(234頁)と述べておられる。圧倒的な原発利権勢力に抗して、このように包み隠さずに正論を披瀝するのは非常に勇気のいることだと思う。

君子国といわれたわが日本の精神状況がここまで堕落してしまったのかとほとほと愛想がつくほどである。それに加えて現在の自己保身をこととするばかりの菅首相の無策が人災に輪をかけている。放射能は垂れ流しで、がれきの多くは撤去されず、義援金の配分もまだまだ不充分なままであるという。

これが、岩手出身の実力者の小沢一郎氏が中心となっていれば、被災者のために即座に行動を起こして色んな手を打っていたであろうが、検察審査会という怪しげな機関によって小沢氏は活動を制限されてしまっている。小衲の知り合いの或る弁護士は、「検察によって不起訴とされた小沢氏を民間の正体不明の審査会が強制起訴にするのは本当におかしい」と吐露していたが、どうも原発推進派の理不尽で作為的な動きに相通ずるうさん臭さを感じるのは小衲だけであろうか。

政治家や学者などが利権から自由になってこうした偏見が取り払われ、原発問題が改善するのを願わずにはおられないが、積年の行動様式を抜本的に変革するのはおそらく至難であるに相違ない。小衲の憂いが杞憂に終われば幸いである。

〔なお、9月30日(金)の開演時間午後6:30で光雲寺にて「光雲寺・月を愛でる会」と題して、中村ヨシミツ氏によるギター演奏と三原ミユキさんによる歌があります。お二人の演奏は一度光雲寺で拝聴したが、心が揺さぶられるような感動を覚えました。皆様方も是非この機会にご鑑賞頂ければと存じます。受付は午後5:30からで、会費は3000円です〕。