「全人的医療と禅」2015年3月【No.141】

「中外日報」という宗教新聞があります。仏教各派だけではなく、神道や新興宗教についても、色んな情報を載せている新聞で、同じ宗門内の事情もここから初めて知ることがよくあります。

この新聞に、全人的なホリステイック医療を実践しておられる帯津良一氏の「人間まるごと健康法」というコラムが連載されています。第10回目は「理想的な老け方」と題されて、ご自身が若い頃には日曜日の午前中は世界一の古本街である東京神田の神保町を歩き回り、買い求めた本を抱えて中華料理店に入って、生ビールに五目焼きそばでひとときを過ごすことが「わが至福のとき」であったそうです。

その折りに同じ料理店でよく会う白の開襟シャツに下駄履きのご老人が、若き帯津先生と同じメニューの生ビールに五目焼きそば以外にシュウマイを取り寄せて悠然と食べていたそうで、その光景を見た帯津先生は、「あぁ、いいなぁ、俺も年を取ったら、あのような老人になりたいなぁ」と「羨望のまなざしで」そのご老人を見ておられたそうです。

第11回目には「清新の気満ちる朝」と題して、早朝の2時半に起きて病院に行き、3時半から5時まで仕事をしてから病院内の気功道場に行って太極拳をひとりで舞い、それから残りの仕事を片付けて7時30分には万全の態勢で爽快な気分に満たされて患者さん相手の今日一日の仕事に向かわれるということです。

それまでお名前は存じ上げていても著書は一冊しか拝読していなかったのですが、これらのコラムを読んで興味をもち、帯津先生の本を何冊か取り寄せて早速読ませて頂きました。驚いたのは超多忙な毎日を送られながら、数多くの本を短期間に著されていることです。これは使命感に燃えてというよりも、ご本人がおっしゃっているように、著述活動が佳境に入って「わくわくするようなときめき」を感じておられるからでしょう。

実は小衲も病院にお勤めの或る方から、ガンなどの病気に坐禅や丹田呼吸が免疫力増進の原動力になるのではないかというお尋ねを受けて、その方にご協力しているところです。坂東三津五郎さんがこのたび膵臓ガンのために亡くなられましたが、手術や抗がん剤投与などはかえって免疫力を低下させ、合併症も生じやすくなると思います。

帯津先生は単なる医者ではなく、白隠禅師の『夜船閑話』に由来する調和道丹田呼吸法の指導者でもあり、体をいたわって病を未然に防ぎ、天寿を全うするというような消極的な「守りの養生」では不充分で、これからの養生は、日々命のエネルギーを高め続けていって、死ぬ日を最高に持って行き、その勢いで死後の世界に突入するという積極的な「攻めの養生」でなければならぬということを提唱しておられるのは、まことに足実地を踏んだ高邁な見識というべきものでしょう。

気功は宇宙を包む虚空と一体になる体験だということですが、これはまさに私たち禅僧が深い禅定に入った時と同じ体験ではないかという気がします。年を重ねるごとに生命のエネルギーが向上していくので、年老いていくのを嘆く必要はありません。私たちも帯津先生のように「ときめき」をもって毎日を過ごし、楽しい毎日を送りたいものですね。

(なお、3月の22日の第4日曜日は光雲寺の彼岸法要がありますので、29日の第5日曜日に変更させて頂きます。)

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