「旧年の回顧と新年の抱負」2019年1月【No.187】

新年明けましてお目出度うございます。いつもコラムをご覧頂き、厚く御礼申し上げます。振り返れば、昨年もわが国は色々な災害に見舞われました。特に6月には大阪で震度6弱の大地震があり、また7月の西日本豪雨では220人以上の人が亡くなるという大変な被害がありました。また25年ぶりの非常に強い規模で本州に上陸した台風21号の襲来で、各地でこれまでに経験したことのない倒木などの被害がありました。
京都でも御所を初め、色んなところでかなりの大木がいとも簡単に倒れる被害があり、小衲の住持する光雲寺近辺の「哲学の道」の裏山も、数多くの倒木がいまだ処理されず放置されたままになっております。まことに自然災害の恐ろしさはわれわれの想像をはるかに絶するものがあります。最近大阪市が万博開催地に決定されて府知事と市長は抱き合って喜んでいましたが、小衲はむしろ、夢洲(ゆめしま)のようなところで半歳にも及ぶ万博を開催して、もし切迫している南海東南海大地震が起これば、取り返しのつかぬ大被害が起こることは火を見るよりも明らかではないかと思うのです。大阪市長は「夢洲は土を入れて10数メートルのかさ上げをしているから心配は要らない」というようなことを申しておりましたが、すぐに押し寄せるといわれる津波は、30メートルを越えるところもあった東北大震災の例を見れば分かるように、想定を上回る被害をもたらすものと覚悟しておくことが必要ではないかと思います。
閑話休題。自然災害のことばかりに言及致しましたが、皆様方は昨年何か胸がときめくような良い出来事はありましたでしょうか。小衲が住持しております光雲寺の場合、昨年の9月に入山した学生さんが見違えるほど明るく元気になったことが挙げられます。文学部で宗教学を専攻する彼は坐禅に非常に関心があって、光雲寺での下宿を希望してきました。最初は応分の下宿代をもらう予定でしたが、学生さんの常として何かバイトを探したいということでしたので、それなら午前中だけ除草などの作務をしてもらえれば、下宿代は無料とし、さらに幾ばくかの月給を渡すという提案をしましたところ、それは願ってもないことだと本人は喜び、それ以来、自ら積極的に作務に励むようになりました。
坐禅に関心があって入山してきた学生さんですから、小衲が最初から色々アドヴァイスしてもよかったのですが、あまり手取足取り注意することは控えました。もとよりお寺の日常生活で、少しでも手抜きや雑なところがあるとすぐさま注意することには躊躇致しません。禅寺では箸の上げ下ろしから歩き方まで、少しでも抜かりがあると手厳しく注意されるのが当たり前になっております。そして草引きなどの作務をしながらも工夫を怠ることなく継続していくように、折に触れて力強く激励しました。自分が本当に工夫に没頭すると、その醍醐味を身に沁みて味わうことができます。何も足を組んで坐禅している間だけが修行なのではありません。禅の修行は四六時中のことです。彼は益々日を追って明るく元気になって参りました。
下宿している別の人から、彼が小衲の作る手料理をとても喜んでいるということを聞き及びました。小衲はよく典座に出て料理を作ります。身体に良い食材を使って心をこめて作るのですが、それは管長さんや老師方のお世話係である隠侍を勤めたり、僧堂で典座をして大衆の食事を幾度となく作った経験がものを言っているのかも知れません。しかし一番基本となっているのは、何と言っても料亭を出したことのある祖母の食事です。琵琶湖のもろこの煮物などは絶品でした。
心をこめて作られたものは作った人の生命力がこめられております。同じレシピで作っても心をこめている人とそうでない人とははっきりと味の違いが出てくるものです。前述の学生さんにそのことを言ったところ、彼の知人の料理人も全く同じことを言っていたそうです。
日増しに元気になった学生さんは、僧堂修行の中で一年で一番厳しい相国寺僧堂の12月の臘八大摂心に参加したいと願い出るようになりました。初心の人には臘八に詰めて参加するのは無理だから、夕方の開板後に参加するようにと進言し、彼は連日4時間ほどの坐禅に出かけ、特に7日から8日に掛けては、釈尊が大悟された因縁に因んで、午前4時頃の鶏鳴まで坐り抜くという厳しいものですが、ものともせずにやり抜き、明け方に帰山してきたときに「どうだった」と尋ねると、顔を耀かせて「充実した良い時間を過ごすことができました」と元気よく答えてくれました。彼の言葉がうそ偽りでないことは、その顔の輝きと彼の全身から発するオーラで分かりました。
小衲自身のことを言わせて頂ければ、このところ連日就寝する前に呼吸に集中して、釈尊のいわゆる「入出息念定」を行じつつ眠りに就くようにしております。そうすると、修行時代に良く経験しました深い禅定に毎回入れるのが、何よりの楽しみとなって参ります。皆様方も横になって就寝される前にご自分の呼吸に集中されませんか。自我などという小さな殻を空じた境地に到達することができますよ。
かくて小衲の今年の抱負としましては、この学生さんがますます道心堅固になってもらうことと、自らの禅定のさらなる円熟です。皆様方は今年一年どのような抱負を持って過ごされますでしょうか。

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