「笑いと禅と免疫力」2015年12月【No.150】

最近よくガンにかかった有名人の人たちのことが話題になります。罹患した人の大多数が、どうやら手術や抗がん剤などの化学療法や放射線治療といったいわゆる「三大療法」に救いを求めているようです。ガン以外にも、病気になれば多くの人はすぐに病院へと走ります。こうした旧来の西洋医学一辺倒の治療に関しては、色んな問題点が指摘されているのは周知の事実でしょうが、それにもかかわらず大きな病人へ行けば、待合は大勢の患者さん(特にお年寄りたち)でいっぱいです。結局は自分の身を守るには、日頃から身心の健康に留意して、よく勉強して調べ、いざとなってもたじろがないだけの心構えが必要ではないでしょうか。

実は拙寺の檀家さんに江戸時代の漢方の名医といわれる中神琴渓翁の児孫のお宅があります。つい最近の十一月末に、琴渓翁の百八十回忌大遠忌法要を執り行ったばかりです。今ご依頼を受けて弟子による伝記である漢文の『中神氏獨語』の書き下しと註釈に従事しているのですが、琴渓翁がその門弟の疑問に答えた講義録が小田慶一氏によってすでに翻訳されております。小田氏はご自身が「現代の琴渓」と崇敬する山本巌先生のご指示により、この翻訳を行われたそうです。この山本先生というお方は、漢方でガンを初めとした難病・奇病の人たちを次々と治癒された実績をお持ちです。琴渓翁も同様です。その翁が寛政十年(1799)に著された主著ともいうべき『生生堂雑記』の冒頭には、昔、京都に住んでいた病人が十三年の間に色んな医者にかかって治療を受けたが、ますます身体の具合が悪くなって、とうとう薬を飲むのが嫌になり、或るとき勝手に薬を飲むのを止めてしまいましたが、そうするとかえって身体の具合が良くなり、長年の病気が二ヶ月ほどですっかり治ってしまった、という話をして、「やたらと医者にかかるべきではない」と戒めておられます。小田氏が「桁(けた)はずれな人物」(あとがき)と呼ばれて驚嘆されている正真正銘の名医がかくいうのですから、まさに痛快ではありませんか。薬漬けの人が多くみられる現代の私たちにとって、とても教訓となる逸話ですね。

現代の私たちも、医者や薬にむやみに頼らない養生法を心がけることが大切なのではないでしょうか。松本光正氏の『笑いと健康・君子医者に近寄らず』という書物があります。中村天風の最晩年の弟子である松本氏は、人間のもつ自然治癒力の強さを天風先生から叩き込まれ、私たちの健康にとって何よりも「笑い」とプラス思考が重要だと説いておられます。その文章たるや、まことに痛快で笑いに満ち満ちています。

俗に「笑う門には福来たる」と申しますが、現在ではそのことが化学的に証明されているそうです。笑うと、脳内麻薬(ドーパミン)が脳の中に出て末梢血管に広がり、血行が良くなります。すると新陳代謝が活発になり、老化や病気を防ぐようになり、悪いところを治そうと自然と体が張り切るという仕組みになっているそうです(同上書、20頁)。ひとたび笑うだけで、毎日5000個以上作られるというガン細胞が一瞬にして100個も消失するといいますから、笑いの効果たるや、とてつもなく素晴らしいものです。

二十年以上前に米国のカリフォルニア大学で行われた実験では、面白くないマンガを作り笑いしながら読むと、面白くなかったはずなのに、10分ほどして脳からドーパミンが出て、今度は本当に楽しくなってくるそうです。このことで思い出しましたのは、江戸時代の黒住教の創設者である黒住宗忠の次の逸話です。長く肺結核で寝ていた人の家に招かれた宗忠は、病人に向かって次のようにいったそうです。「長いご病気で、さぞお困りでしょう。しかし、このように陰気になってはおかげは受けられませんから、今日からつとめて笑う修行をして下さい」。

しかし当時では重病の最たるものといわれる肺病にかかって陰気になっていたので、そう簡単に笑えるはずがありません。懸命に笑う修行をしていると、ふと燈火の明かりでふすまに映っている自分の影が目に入りました。「いま、このしょげ面をもし誰かが見ていたらどんなにおかしいことだろう」とその有様を想像すると、思わずおかしさがこみ上げて腹の底から笑い声が出てきました。この声を聞きつけて家人が駆けつけ、笑い転げていた理由を聞いて、家族中が大笑いをしました。その結果、それまで重病人のいるせいで陰気だった家中がにわかに陽気になって、いつのまにやら重病であるはずの肺結核が治ってしまったということです。

手遅れになってはいけないなどを病を恐れ、人間ドックを生真面目に受け、ドックの結果に一喜一憂して陰気になって自然治癒力を低下させるよりも、お金のかからない「笑い」に満ちた日々を送る方がどれほど楽しいことでしょう。実を申せば、小衲も長年人間ドックを受けていた一人ですが、一緒に受けていた弟がそれにもかかわらず前立腺ガンになって逝去した頃から、西洋医学に疑問を持つようになりました。まじめ人間だった弟は律儀にも医者の勧めるがままに、コレステロール値を下げる薬を十年にわたり服用していたのです。おそらくこの病気になった最大の原因はこの薬の服用ではないかと推測できます。

小衲も実は高血圧なのですが、医者が測定を指示しても馬耳東風で、「血圧測定器など捨てしまう方がよい」という松本先生のご意見に「わが意を得たり」とほくそ笑んでおります。もっと深刻な病気の兆候(具体的には血痰です)があったときにも、病院に行かずに身体を温めて免疫力を高めることによって治しました。「そのように放置して、もし重病になったらどうするのか」という人もいることでしょう。結局、これはその本人自身の決断にかかっています。小衲の場合には、その結果、手遅れになろうが別に構いませんし、後悔は致しません。世の中には必要以上に神経質なほど体のことを気にかけて、病院に行ってかえって病気になっている人たちを何人も見ているからです。松本光正氏の『高血圧はほっとくのが一番』(講談社+α新書)を読むと、製薬会社と一部の医者とが結託して、私たちの体に悪影響を与える降圧剤などを普及させた事情がよく分かります。実態を知って唖然とする方も多くおられるのではないでしょうか。

さて、笑うことはもちろん素晴らしい免疫力向上の方法であることは確かですが、坐禅工夫を通して禅定に入ることによって得られる法悦の醍醐味は、それ以上の喜びです。自分の呼吸を「ひとーつ、ふたーつ」と数えることに専念して三昧境に入り、自己を空じ尽くす爽快さは、何ものにも代えがたい喜びだと言えましょう。

皆さん方も「笑い」と「禅定」で楽しい充実した日々を過ごして見られませんか。

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