「コロナ禍と禅寺の生活」2020年09月【No.206】

 新型コロナウイルスの感染はなかなか収束の気配が見えません。全国的に感染が拡大し、特に東京、大阪、名古屋、福岡などの人口密集地はどうしても感染者が増える傾向にあります。都内の感染者は2万人を超えたということです。また東京の通勤圏内である神奈川、埼玉、千葉の首都圏は感染者が高止まりになっています。ただ日本国内で一番窮地にあるのは、大都市のような医療体制をもたない沖縄県かと思われます。

 世界に目を向けると、感染は拡大の一途を辿っています。インドでは1日の感染者数が米国の記録を抜いて、世界最多記録の7万8千人以上となったということです。海外からの旅行客に依存してきた側面のある、観光業や宿泊業に従事する方々のご苦労は察するにあまりあるほどですが、世界各国からの旅行客が訪日するようになるのは、残念ながらまだまだ先のことかと拝察いたします。ただ、アンケートによれば、世界の人々が新型コロナ収束後に一番行きたい国として、わが国を挙げていますので、早くその日が来ないかと待ち遠しい思いです。

 こうした情勢ですから、「南禅寺禅センター」としての坐禅研修の受け入れはここ何ヶ月もなかったのですが、9月に入ってからは何件か予約が入っています。ほとんどが修学旅行の生徒さんたちです。月二回の月例坐禅会と毎土曜の夜坐禅とはすでにご報告致しましたように、6月から再開していますが、以前にまさるとも劣らないほどの盛況です。もちろん極力3密を避けるなどの対策をとった上でのことです。

 この光雲寺にも下宿希望や作務のアルバイト志望の学生さんたちが増え、掃き掃除や草引き三昧の生活を送ってもらっているお蔭で、お寺がますますきれいになって行くのは嬉しいことです。先日、半月前に入った学生さんの掃除の仕方を見て、注意したことがあります。「掃き掃除の途中で雑草が生えているのを見つけたら、気をつけて抜くように。そういう心持ちで掃除すれば、君が掃除した跡が光を放ち、見る人をして息を呑ませるようなことになるよ」と。

 また料理の荷担に来てくれたときには、「どうや、慣れて来たかな」と尋ねると、力強く「はい、だいぶ慣れてきました」と嬉しそうに応じたので、料理を作りながら、「心を込めて美味しい料理を作ってみんなに喜んでもらおうと、自分が余裕を持って楽しみながら料理する人の料理を食べると、免疫力が上がるという。それに対して、いやいやながら作った人や焦って作った人の料理は、やはり美味しいはずがない。料理の基本は『お袋の味』だ」というと、「なるほど」とうなずいてくれました。

 こうした若い人たちが家庭ではなかなか味わうことの出来ない体験が出来るのが、禅寺生活の醍醐味です。もちろん慣れるまで、最初は色々と周囲から注意を受けたりして、自宅で自由奔放にしているときとは雲泥の差があると思います。慣れるまで辛いこともあるでしょう。また長時間の慣れない坐禅で脚が痛くてたまらないこともあるでしょう。しかしそこを乗り越えると、日々の充実感が増し、わが身も知らないうちに変わっていることに気づくはずです。

 これは私自身の体験からも言えることです。学生ばかりの坐禅道場から久しぶりに実家に帰って母親にあった際に、「お前は目つきがやさしくなったなあ」と言われて驚いた経験があります。必死になって作務や坐禅に邁進した結果、わが身が穏やかになるのかという驚きです。皆さん方の中にもこころが穏やかでない日々を過ごされている方、人間関係や会社関係でストレスを感じている人もあるでしょう。そういう方はぜひ一度坐禅に参加して心の洗濯をして、すがすがしい心境に生まれ変わりませんか。皆さん方の坐禅会へのご参加をお待ち申し上げています。

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