「以身説法と心の安らぎ」2023年01月【No.234】
新年明けましておめでとうございます。コロナ禍がいよいよ4年目に突入致しました。一体いつになったら収束するのでしょうか。それに、ロシアによるウクライナ侵攻の先がなかなか見えません。場合によっては、窮地に陥ったロシアによる核兵器の使用もありうるという予測もあり、予断を許しません。今年はこの愚かな蛮行が一刻も早く平和的に解決することを願うばかりです。
昨年は皆さん方のお宅やお寺ではどのようなことがおありでしたでしょうか。わが光雲寺では下宿の学生さんたちがほとんど総入れ替えになりました。2人は就職が決まり、1人はフランスへ留学しました。お寺での団体生活を離れて独りで下宿する道を選んだ人もあります。新たに下宿した3人のうちの1人は、昨年の春に南禅寺の龍淵閣でおこなわれた「西田哲学」をテーマとする日本哲学会の学会で、主催者の教授からのご依頼でおこなった私の基調講演を編集する業務に携わった京大の大学院生です。「この人のお寺に下宿して色々と指導を受け、話しを聴けたら、心の安らぎが得られるのではないか」と思ったのが、下宿を希望した理由だそうです。ほかの2人の京大生もやはり心の安らぎを求めて来たようです。
お寺の生活をしてしばらくたつと、彼らが一見して生き生きとしてきたことがよく分かりました。光雲寺では私が一番早く起きるのですが、下宿生たちも5時半から起きて、ヘッドライトを装着して境内の内外を掃除します。掃除の仕方がずさんですとすぐさま注意しますし、動作が緩慢だと、私が手本を示してもっと機敏にするようにと指導します。学生さんたちはおそらくこうした経験はこれまで全くなかったでしょう。それでも日数がたつにつれて、動作も生き生きとして元気になったことがよく分かるようになります。私が率先して彼らのそれぞれと、少しハードな作務(仕事)をしたあとで、しかるべき時を見計らって、「どうだ、お寺の生活をして元気になっただろう」と尋ねると、異口同音に「はい、元気になりました。以前とは大違いです」という返事が返ってきます。若い人を育てるには、指導者がもっとも骨を折って率先垂範して、「以身説法」(言葉ではなく、身をもって実践することが真の説法となる)することが、一番大切ではないかと思います。
さらにもう一人、18歳のドイツ人の青年が1月初旬に下宿する予定です。彼は12歳の時に父母の両方の(彼にとっては)祖母が亡くなったのを機縁として坐禅を始め、時おりドイツに出向いておられた備前岡山の曹源寺の原田正道老師について坐禅・参禅指導を受けたそうです。「弁護士であるお母さんとは一緒によく坐禅をしました」ということで、正規の坐禅である結跏趺坐も組めますし、作務をさせても手を抜くことなく、綿密にやり通します。日本語もなかなかうまく話せますし、お経もある程度覚えているようです。本人は出家してできるだけ早く僧堂に行って本格的な修行がしたいということで、私の弟子になって得度式をし、今年の秋の10月頃に僧堂に行く予定です。彼には本当の真剣な修行をして見性(お悟り)の眼(まなこ)を開いてもらいたいものだと念願しております。
全国の禅寺の和尚様方も、若い人たちを下宿させてバイトとして作務をしてもらいながら、道心ある後継者を育てて頂きたいものです。