「坐禅研修の再開」2021年11月【No.220】
わが国のコロナ禍もようやく下火になり、感染者が急激に少なくなって参りました。ただこれで油断すると、これからの寒い季節になってまた第6波の感染拡大が起こる懸念があります。特に世界に目を転じれば、一日の死者数が500万人と、パンデミックの収束はまだまだ先が見えない状況です。これで海外の人たちが観光に来るようになると、またたく間に感染者が再拡大することになりかねません。日々油断することなく、コロナの感染対策に細心の注意を払いながら、お互い過ごして行きたいものです。
拙寺の光雲寺でも、10月下旬になってようやく修学旅行の生徒さんたちの坐禅研修が再開するようになりました。関東地方から100名以上の中学生の生徒さんたちが、1日に2組もやって来られたのです。100名以上の坐禅は一体何ヶ月ぶりのことでしょうか。坐禅前の説明で、「ある生徒さんたちの坐禅研修の後で、先生方が、うちの生徒たちがこれほど真剣に坐禅をして、その結果、短時間で見違えるように変わったのには本当に驚きました、と言われたことがあります。皆さん方もどうぞ先生方がそのように驚かれるほど真剣に取り組んで頂きたいものです」と話を致しました。そう申し上げたからでしょうか、初めて坐禅を経験する生徒さんたちは、慣れない坐禅に一生懸命に取り組んでいたように見受けられました。
坐禅の際の工夫は、いつも一番基本となる「数息観」についてお話します。丹田呼吸・腹式呼吸をして、それを「ひとーつ、ふたーつ・・・」と数えて行くというやり方です。「本当に真剣に数息観をすれば、たとえ短時間の坐禅であっても素晴らしい心境になることは可能です。しかしよほど気合いを入れてやらないと、いつの間にか呼吸を数えることを忘れてしまうことになりかねません」とあらかじめ注意をするのですが、坐禅修行を専門にする雲水さんでもなかなか本当に真剣に工夫する人は少ないのですから、初めて坐禅をする生徒さんたちにとっては、なかなか骨の折れることだったと思います。もし真剣に工夫三昧に徹する雲水さんが大勢いるなら、専門道場の雲水の数が今ほど激減し、修行期間である在錫年数がこれほど少ないことはないはずだからです。
坐禅後の法話で或る逸話を話しました。剣道十段の大先生が八段の高弟と立ち会いをした時のことです。そのときその高弟は大先生と向かい合ってまもなく、「参りました。先生にはまったく隙(すき)がありません。隙というより、人の気配(けはい)というものが全然ありません。一体どうしたらそのような境地に達することができるのでしょうか」と率直に尋ねたそうです。そうするとその大先生は、「わしはただ自分の呼吸をひとーつ、ふたーつ・・・と数えていただけだ」と答えたそうです。こうした数息観の絶大の効果について話すときは、生徒さんたちはとても真剣にこちらに注目して話を聞いてくれているように思えました。
そして、これは毎回最後に申し上げることですが、「皆さん方は今日初めて坐禅研修をされて数息観の工夫を学ばれたわけですが、この工夫をこれ一回限りで終わらせるのは本当にもったいないことです。できることならまた坐禅研修に参加するとか、ご自分で坐禅や数息観をするとかして継続して頂きたいものです。真剣に工夫してもし本当の三昧境に入る人があれば、その時には、なるほどあのとき坐禅研修で和尚さんが話した数息観の功徳というのは本当のことだったなと分かるはずです」という言葉で、法話を締めくくります。
生徒さんたちに負けずに、皆さん方も坐禅されて数息観や公案工夫に専念され、本当の三昧境の醍醐味を味わってご覧になりませんか。