「坐禅研修の法悦」2021年03月【No.212】

コロナ禍のために1月中旬から緊急事態宣言が10都府県に出され、時短営業などを余儀なくされた飲食店や、宿泊業の方々はじめ、各方面で深刻な影響がでていることは、皆さん方もご存知の通りです。大本山南禅寺もこの宣言を受けて、拝観停止にしておりましたが、2月16日から拝観を再開致しました。近隣の湯豆腐で有名な順正さんなどはまだ臨時休業中だそうです。首都圏の1都3県以外の6府県は2月末日で緊急事態宣言が解除されましたが、特に首都圏の感染者がなかなか減らないのが気掛かりです。

 しかし、このコロナ禍の緊急事態宣言中でも、月二回の月例坐禅会と毎土曜の夜坐禅はほぼ満衆になるほどの盛況です。コロナが蔓延しているこうした状況だからこそ、心のよりどころを坐禅弁道に求める人が多くなるのでしょう。ただ「南禅寺禅センター」としての坐禅研修の申し込みは、1月、2月ともに1件しかありませんでした。2月の坐禅研修で特筆すべきことがありましたので、それをご紹介いたします。

 南禅寺の近くで新たなホテルを開業される会社があり、看板の揮毫(きごう)を依頼されるとともに、新入社員さん8名を含む、9名の坐禅研修の申し込みがありました。研修終了2日後に、揮毫した書を受け取りに指導的立場のお二人が見えられました。一般の方々にはあまりなじみがない語かも知れませんが、「揮毫」とは毫(毛筆)を揮(ふる)うということで、僧侶や書家などが普通に使っている言葉です。ただ書家の人達とは違って、特に禅僧の書などはその人の境涯が丸出しになるような書が多く見受けられます。良寛さんの書などは、書を職業としている書家では到底達しえないような自由闊達な趣(おもむ)きと、それを可能にしたずば抜けた境涯を看てとることが出来るでしょう。

 私も南禅寺の管長に就任して以来、あちこちから揮毫の依頼があり、そのたびに心を込めて書こうとするのですが、なかなか会心の作はできないものです。今回も茶掛けの和紙に20枚も書いたでしょうか。何とか、これならば、というものができ上がりましたので、ご連絡して取りに来て頂いたのです。

 そして「本日、書を賜り、私どもが目指すべき姿を最高の形に現してくださいました。表札が完成し、実際に掲げます際には、ご連絡を差し上げますので、館内と合わせて是非ご覧いただければと存じます。」という溢美(いつび)の言を頂き、安堵した次第です。

そして新入社員さんの坐禅研修に関しては、次のようなご報告がありました。「また先日の坐禅研修では、管長様よりじかにお心のこもったご指導を賜りまして、参加者皆が、大変な熱伝導と化学変化を受け、一様に活き活きと甦り、目を見開くような前後の変わりように大変な驚きを感じておりますとともに、今後とも、是非とも引き続きのご指導を賜りたく、何卒よろしくお願い致します。」

 お二人の話によると、新入社員の皆さんは、開業前の準備の疲れからか、一様に表情が暗く、果たして坐禅研修などをして大丈夫かと思わせるような雰囲気を醸し出しておられたようです。ところが一時間あまりの坐禅と法話と抹茶体験のあとでは、上にご紹介したように、お二人を驚嘆させるほどの見違えるような変わりようで、暗かった表情が一転して活き活きと晴れやかになられたということです。

これは、私が自分の修行体験から、一体どのように工夫すれば真の三昧境に入ることができるかということを熱をこめて説き、また聴く方の社員の人たちもそのことを素直に真受けにして頂いたがゆえに、感応道交が可能となったのでしょう。肝心なことは、真剣味を持って、しかも出来るだけ間断なく工夫するということです。本当は私もまだまだ話したいことがあったのですが、時間を超過したので、やむなく終わりにしたのです。社員さんたちはあとで、「もっとお話を聴きたかった」と要望されたそうです。次回また研修する際には、大幅に時間を超過しても、思う存分、法話させて頂こうと思っております。

 皆さん方もこの新入社員さん方のように、坐禅研修により、法悦による劇的な心境の変化を体験されませんか。

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