「率先垂範」2024年12月【No.256】
私が住職をしております光雲寺では現在3名の学生が下宿しています。全員京都大学の学生で皆よく勉強をして真面目な生活を送っております。以前にも申し上げたかと思いますが、下宿代は家賃・食費・光熱費込みの4万円です。学生さん達は時給千円で掃き掃除や草引きなどの作務(さむ)に従事しますが、作務によるアルバイト代が下宿代を上回るので、結果として資金の負担なく下宿することが可能です。この制度は私が光雲寺に住職として赴任した20年前からおこなっているものですが、お子さん達のために仕送りをする必要のない親御さんたちにはとても助かる制度だと思います。
禅寺での生活は早朝から起きて規律正しい日々が続きますので、大学で学ぶことのできない貴重な体験を得ることができます。もちろん住職である私は3時50分に最初に起きて粥座(しゅくざ、朝食)の準備をしてから、ヘッドランプを点けて外掃除に出かけます。私が外掃除を済ませて戻ってくる5時半には学生さん達が起きてきて、お寺の内外の掃き掃除をしてくれます。6時10分の粥座のあとで、8時まで続きの掃き掃除と草引きなどの作務をします。お寺の寺域は広く、草引きをする必要のある場所も多いので、毎日粥座の前に今日はどこの草引きをするかを指示します。もちろん草引き以外の作務をおこなうこともありますが、本山の出頭などがない限り、住職である私が率先しておこなうのは当然のことです。学生さんたちは皆10代・20代ですから、76歳の私にとっては孫のような年代です。しかし身体を動かすことはわが身の健康にも良いと思い、楽しみながら日々を過ごしております。
ある時、人目につかない土手下の除草をしたときのことです。ふだんはあまり通ることのない場所なので、雑草が長く伸びて生い茂っていました。私は、通常の除草用具で草引きしたらとても時間もかかるし、雑草の根も取れにくいだろうから、先が半月形をしている長い除草用具を使ってやるように指示しました。まず私が一人で始めてだいぶたってから、一人の学生さんがやってきました。体力のある彼は頑張って力をこめて大きく伸びた雑草の根を切り取ろうとしていました。私は「そんなに力んでやっていたら疲れるだけだ。力を入れずに振り落とした鍬(くわ)の力で楽にやるのがコツだ。どんな武道でも達人は何ら力を入れないということを君も知っているだろう。」と忠告しました。その通りにやってみると、彼は「なるほどこれは楽ですね。」と率直な感想を吐露しました。
作務の時以外でも、たとえば料理を運ぶお盆が曲がって置かれていたり、履き物が乱れて置いてあるなど、日常生活で気づいたことがあれば、そのつど注意します。普通の家庭生活で親御さんがそのようなことを注意することはほとんどないでしょう。しかし禅寺での毎日の生活でそのように一挙一動を正されるということは、前途有望な青年たちにとって必ず実り多いものとなるに違いないと私は確信しております。そうした指摘が若者達に受け容れるようになるためには、何よりもまず住職自らが率先垂範しておこなうことが大切ではないでしょうか。特に作務を重視する禅宗では、和尚様方が頑張って日常の作務に励んでおられるということをよく耳にします。できれば青年達をお寺に下宿させて指導をして頂ければ、彼らにとってのみならず、お寺や和尚様方にとっても実り多いことになるのではないかと思います。