ブッダの調息・「入出息念定」2023年09月【No.242】

最近は坐禅研修の際などに、ブッダ(お釈迦様)がその行法によって解脱を成就された「入出息念定」(アナパナサテイサマーデイー)の実践を勧めております。これは私たちが普段無意識のうちにおこなっている出入りの呼吸に集中するだけで深い三昧境に入ることができ、ひいては解脱(げだつ、悟り)にまで到ることができるという有り難い教えです。ただその場合の呼吸というのは普通の呼吸ではなく、丹田呼吸あるいは腹式呼吸といわれるもので、要するに全身で呼吸することに習熟して三昧境に入るのです。

 このことに関して、私が特に強調したいのは、坐禅の時だけではなく、作務をしている時でも歩いている時でも寝ている時でも。要するに四六時中できるだけ丹田呼吸を心がけていると、常に禅定(ぜんじょう)、すなわち三昧境の下地が養われていて、その上で坐禅に入ると、スムーズに禅定に入ることが可能となるということです。私の経験から申しあげれば、「よし、入出息念定をやるぞ」と力んで取り組むよりも、ごく自然にスーと調息に入った方が素晴らしい三昧境に入りやすいということです。

 これまでも京大生を中心とした坐禅と法話会を時おりおこなって来ましたが、近日中におこなう予定のこの集まりでも、ブッダの調息である「入出息念定」の重要性と、禅の臨済宗でおこなわれている公案工夫による三昧境との連関について話しをしようかと思っております。

 ところで最近わが光雲寺の下宿生に浄土真宗のお寺の息子さんが加わりました。京大で宗教学を専攻する三回生です。浄土教と禅宗はよく正反対の立場だと言われておりますが、私はそうは思いません。わが恩師の森本省念老師も浄土教を重視しておられましたが、浄土教の理解が深まることにより、禅宗の理解も深まり、禅宗の理解が深まることにより、さらに浄土教の教えが深くなると思います。
 
私は彼に、柳宗悦が編集した真宗の妙好人の『因幡(いなば)の源左』という本を読んだことがあるかと訊ねたところ、「いいえ、まだ読んだことがありません」というので、早速彼にくだんの本を是非読むようにと手渡した次第です。彼はすでに三週間の習練を経て、すでに真宗の住職資格を取得しているということですが、「並みの僧侶で終わることで満足するようではいけない。禅の教えも学ぶことによって君の浄土教の理解もきっと深まると思う。禅寺に下宿したのは絶好の機会だ。一緒に両方の宗旨を研鑽(けんさん)しよう。」と呼びかけると、彼も力強く「はい、頑張ります」と応じたので、これからがますます楽しみです。

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