京都大学「第5回清風荘サロン」2023年06月【No.239】
京都大学の近くの今出川通に面した場所に3500坪ほどの広大な庭園を備えた「清風荘」という別荘があります。もともとは徳大寺家の清風館という名の別荘でしたが、西園寺公望(きんもち)公の弟である住友春翠が徳大寺家より譲り受け、それを公望公の京都での控え邸としたそうです。工事は住友の財によって行われ、清風荘と名づけられました。公望没後は住友家によって保管されていたのですが、明治30年に文部大臣として京都帝国大学の創設に尽力された公望公の遺徳を偲(しの)ぶために、昭和19年に京都帝国大学に寄贈されました。
二代目八木甚兵衛により建築された十二棟ある和風建造物は、京都大学の所有する唯一の重要文化財建造物だということです。庭園は有名な七代目小川治兵衛(通称「植治」)により作庭されたもので、われわれが訪問した際にも、見事に手入れされた赤松の大木が何本も眼に映える素晴らしい日本庭園でした。今出川通に面してあのような立派な庭園建築があるとは想像もできないことで、京大出身者も知っている人は少ないのではないでしょうか。
さて、京都大学総務部渉外課から「第5回清風荘サロン」への出席を打診されたのは、1月下旬のことです。サロンの目的は「有識者をお招きし。その幅広い知見を京都大学にも活用できるよう、湊総長をはじめとする本学関係者等と膝を交えて懇談することにより、今後の京都大学の運営に活かすことを目的とする」というものです。これまでのゲストは、安藤忠雄氏(建築家)、平野啓一郎氏(小説家)、キャシー松井氏(経済学者)、千玄室氏(裏千家元家元)などです。参加者は京大卒業生で各界のトップとして活躍する方を対象とした総長支援団体である「京都大学鼎(かなえ)会」の方々10名ほどです。
当日は1時間の講演の他に昼食と1時間の坐禅研修を含めて、3時間半に及ぶ滞在となりました。私は演題を「坐禅工夫の醍醐味」と題して、私が西洋哲学の研究から、それに飽き足らずに出家して禅の道に進んだこと、そしてどういう坐禅工夫をして禅定の体験を幾度となく得ることができたのかという、自分自身の修行体験を話しました。あまり佳境に入って話し続けたせいか、気がついたらすでに1時間が経過していたのです。思わず、「坐禅工夫もこのように時間を忘じるようにすればいいのです」という言葉が口をついて出ました。
昼食後に行われた坐禅は椅子坐禅にして警策(策励のための肩を打つ棒)は使うことなく、釈尊(ブッダ)が重視された「入出息念定」(随息観)の工夫をして頂きました。終了後に「どうですか、三昧境に入ることができましたか」と参加者に向かってお尋ねしたのですが、うなずく人は少なかったように思います。私は講演の佳境の延長線上で良い禅定に入れましたので、「私は良い坐禅工夫ができましたよ」と申し上げた次第です。このようにたとえ短時間でも真剣に行えば佳境に入ることはさほど難しいことではありません。
皆さん方も真剣に「入出息念定」(随息観)の工夫をして、えもいえぬ法悦をわがものとしてみませんか?