光雲寺「生類慰霊塔」の建立2022年03月【No.224】

このたび光雲寺の墓地の一画に「生類慰霊塔」を建立することとあいなりました。3月20日の春季彼岸法要までには、できる予定です。調べてみると、南禅寺の塔頭(たっちゅう)には思いのほかそのような供養塔を備えた寺院が何ヶ寺もあることを知りました。やはり生類(動物)を飼っておられる檀家さんたちからの、「慰霊塔、あるいは供養塔を作って欲しい」という要望が数多く寄せられたからでありましょう。拙寺でもこれまで二匹の柴犬を他の塔頭寺院の慰霊塔に埋葬して頂いたことがあります。今は三匹目の柴犬(小梅と申します)を飼っているのですが、他の檀家さんからのご依頼もあり、「慰霊塔」の建立を思い立った次第です。

 皆さん方は「ドッグセラピー」という言葉を聞かれたことがあるかと思います。老人ホームなどで認知症気味のお年寄りに穏やかな気性の犬のお相手をする習慣をつけてもらうと、認知症が改善されると申します。犬などは可愛がれば可愛がるほどなついてくれますので、楽しい時間になることは間違いありません。

 あるいは、小中学生などの老人ホーム訪問などもとても良いことだと思います。私は、あん摩をしながら祖母に色々な苦労話を聞いたことがとても充実した時間だったというわが身の経験から、以前から思っていたことですが、お年寄りが小中学生を前にして自分の体験談を語るという機会を持って頂くのが良いのではないかと思います。そのようにすることで、お年寄りだけが若者との出会いの恩恵をこうむるのではなく、未来のある若者たちにとってもきっと実り多い経験になるのではないでしょうか。

 「生類慰霊塔」の話から少し脱線しましたが、先日NHKの「こころの時代」という番組で、「“ほんとう”を探して」と題して、民話採訪者の小野和子さんという方が話されているのを聞いて、ぜひとも小野さんの著書『あいたくて ききたくて 旅に出る』を読んでみたくなりました。そして取り寄せて一読して、その内容に深い感銘を受けました。宮城県を中心とした民話採訪で得られた話が語られております。

 その第四話「かのさんのカロ」は人と犬との稀有な心の交流の記録です。宮城県の北のはずれ、秋田県との境の集落に小野さんは1979年の9月に民話を求めて出かけられました。東北地方に嫁いだ女性はほとんど言語を絶する苦労をしたそうです。小野さんが大正七年(1918)生まれのかのさんという方に出会い、「今は農繁期のため昔話をする余裕はないが、寒くなってから来たら語ってあげる」という約束をして見送ってもらった際に、かのさんは庭の奥にある小さな丸い石に手を合わせたので、理由を聞くと、「犬のカロが埋めてある」と言い、自分から愛犬カロのことを語り始めたそうです。

 それによると、知り合いが米を売りに来たときに、真っ黒でなんとも目がかわいい犬を連れていたので、「その犬っこくれないか」というと、その人は「いいとも、もらってくれるなら助かる」と言って、かのさんにその犬をくれたそうです。かのさんは人間の子と同じように大切に育て、「とにかく愛(め)ごいから、どこさ行くにも連れて歩いたのしゃ」と言われ、「ここで待ってろよ」と言えば、何があってもそこを動かずに待っているというような「利口な犬だった」といいます。かのさんは「どんな道を行くにもカロと一緒ならおっかなくねえの」と語り、「カロは十四年間もおれを助けて働いてくれたんだよ。大事な大事なおれの両腕だったのしゃ」と話されたそうです。

 人間以上に働いてくれたそのカロがもう腰が立たなくなって死ぬ日の朝、かのさんが草刈りに出ようとした時にあとを追ってきたが、ついてくる力がもうなくてかのさんをじっと見ていたそうです。今日はそばにいてやりたかったが、姑(しゅうとめ)さまに気兼ねして草刈りに出たら、小さな息子さんが「カロ、死んだ」と呼びに来ました。息子さんの話ではカロはかのさんが草刈りに行くのを追って行って、かのさんの姿が見えなくなったら、ばたっと倒れて死んでしまったのです。「その後、どんな犬を飼っても物足りなくて物足りなくて、犬と感じられないんだよ。カロ恋しくて、カロ恋しくて、どのくらい泣いたものか」とかのさんは胸の内を明かされたそうです。その後、十年ほど経ってカロにそっくりな「犬っこ」を警察犬の訓練所で見て、ぜひとも欲しくて我慢ができないほどでしたが、「80万円だ」と法外な値を言われて断念せざるを得なかったということです。

 愛犬カロとの出会いは、かのさんの過酷な寒村での日々の生活の中で、何よりの潤いとも「両腕」ともなっていたものでしょう。皆さん方もご自分の愛(いと)しい生類を見送られ、慰霊のお気持ちになられたら、光雲寺の「生類慰霊塔」を思い出してご連絡頂ければ幸いに存じます。その際は心を込めて慰霊供養のお経をあげさせて頂きます。

月刊コラム(毎月更新)

楽道庵住職ブログ

facebook

臨済宗大本山南禅寺

× 閉じる