「コロナウイルス蔓延の中の工夫」2020年05月【No.202】

 コロナウイルスの感染拡大で5月6日までの緊急事態宣言が発せられましたが、多少減少傾向にあるとはいえ、少し油断すれば、第二波、第三波の感染拡大が懸念されております。緊急事態宣言の1ヶ月ほどの延長が濃厚となっておりますが、当然のことでしょう。

 わが国の政府は専門者会議の意向を受けて、クラスターを追跡することに重きを置き、諸外国に比して、PCR検査の数を増やすことに力を注いでおりません。その結果、体調が悪くて「自分はコロナウイルスにかかっている」と怖れ、何とかPCR検査を受けたいと切望する人でも、なかなか受けられないという憂うべき事態になっております。コロナウイルスは思いのほか厄介な病で、軽症と思われた人が急に重症になるケースが多数報告されているのですから、4日間高熱が続いてようやく検査が受けられるというような間延びしたことでは、手遅れになる人が続出するでしょう。

 優秀な人材を大臣として起用し、水際対策や入国者の隔離を徹底して、早期から医療用マスクの計画的増産を主導した蔡英文総統率いる台湾や、ドライブスルー方式やウオーキングスルー方式を採用して大規模な検査を実施して陽性者の洗い出しに力を注いだ韓国が、コロナウイルスの封じ込めに成功して一人の感染者を出さない日もあるようになったのに対して、わが国の政府の対応はあまりにも後手後手かつ優柔不断であると言わざるを得ません。

 連日感染者数が発表されていますが、その数字が感染者のすべてを表示するものでないことは明らかです。感染経路不明者が増加しているというのは、無症状の感染者が世間にあふれているからに他なりません。PCR検査の数を増やして陽性者の数を洗い出さなければ、これからも感染経路不明者がなくなることはないでしょう。各地の病院での異常なほどの院内感染続発も、コロナウイルス感染以外の病気で運び込まれた人が、あとになって図らずも感染者であるということが判明したという経緯があります。よもや感染者だと思わずに患者さんたちに対応した医療機関の方々は防護服も着けていなかったわけですから、感染するのも無理からぬことです。医療崩壊すれすれの状況で連日わが身を擲って患者さん達のために力を尽くしておられる医療関係の方々のご負担が少しでも軽減するため、PCR検査の数を増やして感染者を特定した上で、陽性の軽症者にはホテルでの生活を用意し、中症者にはそれ専門の病院を準備し、重症の人たちには集中的治療をおこなうようにすればと思います。

 そして一般の国民は、いつ誰が感染しているかも分からない状況なので、できるかぎり外出を控えて人に接する機会を減らし、一刻も早くこの危機的状況から脱するようにしなければなりません。緊急事態宣言が長い間続いて海外からの旅行者や国内での人の移動が極端に減り、宿泊業や飲食業を初めとして経済的危機に直面している方々には、政府がもっと思い切った休業補償をしなければいけないと思います。

 安倍首相の4月13日の自民党役員会での、「休業に対して補償を行っている国は世界に例がなく、わが国の支援は世界で最も手厚い」という発言には耳を疑った人が多くいたと思います。英国ではフリーランスを含む自営業者に平均所得の80%を支払い、フランスでは商店などの従業員に賃金の70%までを補償、ドイツでは従業員10人以下の事業所には3か月で最大約180万円、従業員5人以下の事業所には最大約107万円を給付など、各国の例を知らないような人が首相をしているようでは、前途に希望の光が見えるはずがありません。

 ただ優柔不断の政府に対して、大阪の吉村知事を初め、各知事たちが必死になって人々のために医療体制を整え、補償費用を捻出されている姿は本当に頭が下がります。私たちも多少なりとも余裕のある人は、こうした時にこそ何らかのお力添えをして、連日奮闘しておられる医療機関の人々を支えたり、また充分な内部留保のある大企業は、困窮している人々のために尽力して頂きたいものです。小衲も微力ながら、或る方と一緒になって医療関係の方々の支援をしていくことにしております。

 さて、その上で、われわれ禅に参ずる者は、こういう非常事態の最中でも三昧境の工夫を怠るわけには参りません。これまでのコラムで再三言及しました「無字三昧」の工夫、或いは「数息三昧」の工夫に精魂を込めて集中していくならば、これまで曾て体験したこともないような痛快な境地に到ることが可能となります。コロナウイルス蔓延の極限状態の中で、別次元のこの三昧境の法悦の醍醐味を堪能してみませんか。

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